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【入門版】インドネシアで人を雇う前に知っておくべきこと|現地雇用・日本人駐在員の人事労務完全ガイド

コラム

インドネシアに進出する日本企業が最初に直面する課題のひとつが「人の雇用」です。現地のインドネシア人スタッフを採用する場合も、日本から社員を派遣する場合も、日本とは大きく異なるルールと手続きが存在します。

「インドネシアの労働法は労働者に非常に有利だ」——これは進出経験のある経営者からよく聞く言葉です。解雇の難しさ、退職金の重さ、最低賃金の毎年の上昇……。日本の常識でマネジメントしようとすると、思わぬトラブルに発展することがあります。

本記事では、インドネシアで人を雇う際に知っておくべき労務の基本を、現地雇用(インドネシア人スタッフ)と日本人駐在員の2つの視点から解説します。

この記事の目次

  1. インドネシアの労働法の基本的な考え方
  2. 雇用契約の種類(有期・無期)
  3. 最低賃金制度
  4. 労働時間・残業の規制
  5. 宗教祭日手当(THR)
  6. 社会保険(BPJS)への加入義務
  7. 解雇・退職時の退職金(Pesangon)
  8. 就業規則の作成義務
  9. 日本人駐在員を雇用する場合の手続き
  10. 外国人雇用の主な規制・注意点
  11. よくある失敗と対策
  12. まとめ

 本記事は2025〜2026年時点の情報をもとに作成した入門ガイドです。インドネシアの労働法は頻繁に改正されます。実際の労務判断は必ず現地の労務専門家・弁護士にご相談ください。

1. インドネシアの労働法の基本的な考え方

インドネシアの労働法は、日本と比べて「労働者保護」が非常に強いのが特徴です。2003年制定の労働法(Law No.13/2003)を基本として、2020年の雇用創出法(Omnibus Law)による改正を経て現在に至ります。

日本企業が特に注意すべき点は以下の3つです。

  • 解雇が非常に難しい:正当な理由なく従業員を解雇することはできず、解雇の場合も高額な退職金の支払いが義務付けられています
  • 最低賃金が毎年上昇する:地域ごとに毎年改定され、違反には刑事罰が科されます
  • 手続き・書類が多い:雇用契約書・就業規則・社会保険登録など、日本以上に書類と手続きが求められます

「日本でやっていた通りにやればいい」という考え方はインドネシアでは通用しません。現地の労働法を正しく理解した上で、採用・雇用管理・解雇のすべてのプロセスを設計することが重要です。

2. 雇用契約の種類(有期・無期)

インドネシアの雇用契約は、大きく2種類に分かれます。

有期雇用契約(PKWT:Perjanjian Kerja Waktu Tertentu)

期間を定めた契約で、日本の契約社員・アルバイトに相当します。ただし、日本のような感覚で使うと深刻なトラブルになりやすいため注意が必要です。

  • 最長5年(延長含む)まで締結可能
  • 試用期間は設定できない
  • 契約終了時に補償金の支払いが義務(勤続期間に応じた額)
  • 契約書はインドネシア語で作成することが必要
  • 雇用者が一方的に中途解約する場合、残存期間の賃金を支払う義務あり

無期雇用契約(PKWTT:Perjanjian Kerja Waktu Tidak Tertentu)

期間の定めのない契約で、日本の正社員に相当します。

  • 試用期間は最長3ヶ月(試用期間中は最低賃金以上の支払いが必要)
  • 試用期間中も社会保険(BPJS)への加入が義務
  • 試用期間終了後の解雇には厳格な手続きが必要
  • 解雇時には高額な退職金(Pesangon)の支払いが義務

労働契約はインドネシア語で作成する必要があります。外国人労働者の場合はバイリンガル契約(インドネシア語+英語/日本語)が可能ですが、解釈に相違がある場合はインドネシア語版が優先されます。

3. 最低賃金制度

インドネシアの最低賃金制度は、日本と異なり州・県・市ごとに設定され、毎年改定されます。

最低賃金の水準(2024〜2025年の目安)

地域月額最低賃金(目安)日本円換算(目安)
ジャカルタ特別州約570万ルピア約5.7万円
西ジャワ州(バンドン市)約400万ルピア約4万円
中部ジャワ州約200万ルピア約2万円
ジョグジャカルタ特別州約200〜220万ルピア約2〜2.2万円

最低賃金:毎年上昇(2026年平均+5.91%)、地域・業種により異なります。
最低賃金を守っているつもりでも、毎年11月下旬頃に行われる見直しにより、いつの間にか最低賃金を下回ってしまうケースが多発しています。最低賃金は労働法で保障されており、違反した場合、「1年以上4年以下の禁固刑・1億ルピア以上4億ルピア以下の罰金刑」の両方またはいずれか一方の刑事罰が科されます。

毎年11月末に翌年の最低賃金が発表されるため、給与テーブルの見直しを忘れずに行う必要があります。

4. 労働時間・残業の規制

通常の労働時間は週40時間に制限されており、通常は1日7時間×6日、または1日8時間×5日に分かれています。

残業は1日最大4時間、週最大18時間まで認められています。雇用者は残業に対する報酬を時給に基づいて支払い、通常の時給の1.5倍から2倍の範囲とされています。残業には従業員の書面による同意が必要です。

項目規定
所定労働時間週40時間(1日8時間×5日 または 7時間×6日)
残業上限1日4時間・週18時間まで
残業割増率通常時給の1.5〜2倍(状況による)
残業の同意従業員の書面による同意が必要
長時間残業時の義務1日4時間超の残業時:1,400kcal以上の食事と飲み物の提供義務

5. 宗教祭日手当(THR:Tunjangan Hari Raya)

インドネシア特有の制度として、宗教祭日手当(THR)があります。日本のボーナスとは異なり、THRは法的に支払いが義務付けられた手当です。
THR:宗教祭日の7日前までに月給1ヶ月分を支給することが義務です。

THRの主なルール

  • 勤続1年以上:月給1ヶ月分を支給
  • 勤続1年未満:勤続月数÷12ヶ月分を按分支給
  • 支払期限:宗教祭日の7日前まで(イスラム教はレバラン前)
  • 支払いを怠った場合:延滞金・罰則が科される
  • 無期・有期雇用ともに対象

レバラン(イスラム教断食明け大祭)の前にTHRを支払う企業が多く、毎年この時期に従業員の帰省ラッシュが起きます。製造業などでは生産計画への影響も大きいため、事前の準備が必要です。

6. 社会保険(BPJS)への加入義務

インドネシアの社会保険はBPJS Ketenagakerjaan(労働社会保障)とBPJS Kesehatan(健康保険)の2つで構成されています。

BPJS Ketenagakerjaan(労働社会保障)

労働災害・死亡・老齢・年金保険をカバーします。保険料は企業と従業員の双方が負担します。

BPJS Kesehatan(健康保険)

企業に雇用される被用者はBPJS Kesehatanへの加入が義務となっており、保険料は月給の5%と定められています。その内訳は4%を企業負担、1%を従業員負担と法律で決まっています。

保険の種類企業負担従業員負担
健康保険(BPJS Kesehatan)4%1%
労働災害保険0.24〜1.74%
死亡保険0.30%
老齢保障3.70%2%
年金保険2%1%

BPJSへの加入は正社員・契約社員を問わず、すべての労働者に義務付けられています。たとえ試用期間中や短期の契約社員であっても加入手続きを怠ってはなりません。外国人労働者(駐在員・現地採用)についても、6か月以上インドネシアで働く場合は原則BPJS加入が義務となります。

7. 解雇・退職時の退職金(Pesangon)

インドネシアの労働法で最も日本企業が驚くポイントのひとつが「退職金(Pesangon)」の重さです。

インドネシアでは解雇の際に、退職金の支払いが義務づけられています。コストカットを目的とした場合はもちろん、懲戒解雇であっても退職金の支払いが必須です。

退職金の構成

インドネシアの退職金は以下の3つの要素で構成されます。

  • Pesangon(退職金):勤続年数に応じた基本退職金。勤続1年未満で月給1ヶ月分、9年以上で月給9ヶ月分など
  • Penghargaan Masa Kerja(勤続報奨金):3〜6年勤続で月給2ヶ月分、7〜9年で3ヶ月分など
  • Uang Penggantian Hak(権利補償金):未消化有給休暇・医療費・移転費用など

解雇の難しさ

インドネシアでは、正社員を解雇するためには原則として労働裁判所での手続きが必要です。また、解雇前には書面による警告(SPメール)を段階的に発行するプロセスが求められます。

「パフォーマンスが低いから辞めてもらう」という日本的な感覚での解雇は、インドネシアでは法的リスクを生みます。採用時から退職・解雇を見据えた雇用管理の設計が重要です。

8.  就業規則の作成義務

10名以上の労働者を雇用する企業は就業規則の作成・届出が義務です。また、外国企業については雇用人数に関わらず作成するよう指導されています。

インドネシアの就業規則には以下の特徴があります。

  • 有効期限がある:日本の就業規則と異なり、インドネシアの就業規則には2年間の有効期限があり、期限が来たら更新・届出が必要
  • 労働当局の承認が必要:管轄の労働当局に届出・承認を得て初めて有効
  • 変更には合意が必要:労働者に不利な変更をする場合は、労働者代表との合意が必要
  • インドネシア語で作成:インドネシア語での作成が基本

9. 日本人駐在員を雇用する場合の手続き

インドネシアに日本人社員を派遣・駐在させる場合、以下の手続きが必要です。

必要な許可・手続き

  1. 外国人労働者雇用計画書(RPTKA)の承認取得
    どのポジションに外国人を雇用するかを事前に申請・承認を得る必要があります。
  2. 外国人労働者雇用補償金(DKP-TKA)の納付
    外国人1名あたり年間100米ドルを政府に納付します。
  3. 就労ビザ(VITAS)・暫定居住許可(ITAS)の取得
    日本で就労ビザを取得し、インドネシア入国後に暫定居住許可を取得します。
  4. BPJS(社会保険)への加入
    6ヶ月以上就労する場合はBPJS加入が義務です。
  5. インドネシア人コンパニオンの任命
    外国人1名につき少なくとも1名のインドネシア人を技術移転のためのコンパニオンとして任命する義務があります。

10. 外国人雇用の主な規制・注意点

インドネシア人の雇用を優先することが大原則としつつ、インドネシア人が担うことができない特定の役職に限り、特定の期間、外国人を雇用することができます。

外国人が就労できる役職には制限があり、インドネシア人でも対応できる一般事務職などへの外国人採用は認められません。主に管理職・専門職・技術職に限定されています。

外国人雇用で注意すべきポイント

  • 就労できる役職の制限:管理職・専門職・技術職に限定される
  • 就労経験の要件:就労予定の役職に従った、少なくとも5年間の就業経験を有することが義務付けられています。
  • インドネシア語教育の義務:外国人労働者へのインドネシア語教育が義務付けられています
  • 技術移転の義務:インドネシア人後継者への技術・スキル移転を行う義務があります
  • ビザの更新管理:暫定居住許可(ITAS)の有効期限管理を怠ると不法就労になるリスクがあります

11. よくある失敗と対策

失敗①:試用期間中に解雇できると思っていた

実態:無期雇用(正社員)の試用期間中は解雇が比較的容易ですが、有期雇用(PKWT)には試用期間自体が設定できません。「試用期間だから気軽に辞めてもらえる」という認識は有期雇用には当てはまりません。
対策:雇用形態と試用期間の関係を正確に理解した上で契約を設計する。

失敗②:最低賃金の改定を見落とした

実態:毎年11月末に翌年の最低賃金が発表されますが、確認を怠り気づいたら違反状態になっていたケースがあります。違反には刑事罰が科されます。
対策:毎年11月末〜12月初旬に最低賃金の改定情報を確認し、翌年1月1日までに給与テーブルを見直す。

失敗③:THRの支払いを忘れた・遅延した

実態:レバランの時期が毎年変わるため、THR支払期限の管理を怠るケースがあります。
対策:年間の労務カレンダーにTHR支払期限を明記し、余裕を持って準備する。

失敗④:解雇時の退職金を過小に見積もった

実態:「このくらいで辞めてもらえるだろう」という日本の感覚での見積もりは通用しません。勤続年数が長いスタッフの退職金は月給の十数ヶ月分に達することもあります。
対策:採用時から退職金の積み立て・引当を考慮した人件費計算を行う。

失敗⑤:就業規則の有効期限切れに気づかなかった

実態:インドネシアの就業規則には2年間の有効期限があり、更新を怠ると法的効力を失います。
対策:就業規則の有効期限をカレンダー管理し、期限の3〜6ヶ月前から更新手続きを開始する。

11. まとめ

インドネシアの人事労務で押さえるべきポイントを整理します。

  • インドネシアの労働法は「労働者保護が非常に強い」——日本の常識は通用しない
  • 雇用契約は有期(PKWT)・無期(PKWTT)で扱いが大きく異なる
  • 最低賃金は地域ごとに毎年改定——11月末の発表を必ず確認
  • THR(宗教祭日手当)は法律上の義務——レバランの7日前までに支払う
  • 社会保険(BPJS)は全員加入義務——外国人も6ヶ月以上就労なら対象
  • 解雇には厳格な手続きと高額な退職金(Pesangon)が必要
  • 就業規則は10名以上で作成義務・有効期限2年
  • 日本人駐在員にはRPTKA・ITAS・コンパニオン任命などの手続きが必要

インドネシアの人事労務は複雑で、かつ法改正も多いため、現地の労務専門家・弁護士との連携が不可欠です。

ANCジャパンでは、インドネシア進出に伴う労務管理・現地スタッフ採用・日本人駐在員のビザ手続きなど、人事労務に関するご相談も承っています。「採用を始めたいが何から手をつければいいかわからない」という段階からでもお気軽にご相談ください。

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